放課後、私は校内の売店でローストビーフサンドイッチを買うと織也くんのクラスへと向かった。
 廊下から教室を覗くと彼の姿は見えず、代わりに数人の男子生徒が机を囲んでスマートフォンをいじっている。

(あれ……もう帰っちゃったかな)

 諦めて帰ろうか悩んでいると、室内にいた一人の男子が私に気付いて教室のドアを開けた。

「どうしたの? 誰か探してる?」
「うん。渡会織也くん。もう帰っちゃった?」
「あー、織也か。ちょっと前に鞄持って出てったけど、担任に呼ばれてるから職員室に寄るって話してたな。行ってみたら?」
「そっか。ありがとう」

 親切な男子生徒に礼を言い、私は教室を後にする。
 急ぎ足で職員室へ向かうと、ちょうど室内から出て来た織也くんとかち合った。
 彼は私を見るなり、長い人差し指をびっと鼻先へ突きつけて来る。

「有明海羽!」
「え?」
「お前、やっぱり転校生だったんだな。クラスの奴等が噂してたぞ」
「そ、その節はどうも……」
「担任に用? 職員室、会議始まっちゃったからしばらく入れないと思うけど」
「いや、織也くんのこと探してて」
「俺のこと?」
「うん」

 怪訝な表情を浮かべた織也くんは、私の右手に握られた紙袋をちらりと見やる。

「……じゃあついて来て。ここで立ち話して騒ぎになっても面倒臭いし」

 ただお礼を言えれば良かったのだが、どうやら彼は時間を作ってくれるようだ。
 返事を待たずにすたすたと歩き出した織也くんの綺麗に伸びた背中を、私は慌てて追いかけた。