「その織也くんって人、そんなに学校で有名なの?」
「そりゃそうだよ。だって織也はファッションモデルだもん。海外の仕事も多いから、高校にいるのは珍しいんだよ」
「そうなんだ。通りでルックスがいいと思った」
「で、どう? 織也にする?」

 『する』とはなんだ。
 身を乗り出して尋ねるきららちゃんに、「だからそう言うのじゃないから」と私は掌を付き出す。

「でも助けてもらった時にお礼を言い忘れちゃったから、せめてありがとうくらいは伝えたいなあ」
「じゃあ、織也の好きなものでもあげたらどう? きっと喜ぶよ」
「確かに。きららちゃん、織也くんの好きなものについて何か知ってる?」
「うん。えーっとね」

 わずかに視線を巡らせた後。
 きららちゃんは滔々と語り出した。

渡会織也(わたらいおりや)、四月八日生まれの18歳。趣味はランニングと料理で、特技は洋服のコーディネート。好物は売店に売ってるローストビーフサンドイッチで、昨日の夜に食べたものは……」
「ちょっとちょっと!」

 彼女の口からすらすらと流れ出る個人情報にぎょっとして、私は話を遮る。