担任教諭が、黒板に大きく自分の名前書く。

「有明海羽さん。今日からこの三年一組の仲間になることになった」

 三十人ほどの生徒の視線を一身に浴びながら、私は「よろしくお願いします」とぺこりと頭を下げる。
 イケメンから逃げ出した後、ひとまず職員室へ駆け込んだ私は「あ~! 待ってたよ有明さん」とやけにフランクな担任によって出迎えられ、一緒に教室まで行くことになった。

「卒業まで残された時間もわずかだが、皆仲良くしてやってくれ」

 クラスの面々を見渡すと、男女の割合はほぼ半数。校則を著しく逸脱したような外見の生徒は誰もおらず、教室内の備品なども見た目の綺麗なものがきちんと整っている。比較的恵まれた学校の風景、と称するのがふさわしいだろう。

「じゃあ、有明さんはきららの隣な。一番後ろの窓際、あそこ座って」
「はい」

 担任が指さした席へ、私は腰を下ろす。
 始業のホームルームが始まる中、隣の席に座っていた女の子が人懐こい笑顔をこちらへ向けた。

「わたし、東雲(しののめ)きらら。よろしくね、海羽ちゃん」

 ゆるくカールしたツインテールが揺れる。アイドルみたいな名前にふさわしく、彼女自身も男子からの視線を一身に集めそうな外見をしていた。

「よろしく、きららちゃん」
「私、隣の席にあなたが来るのをずっと待ってたんだ。だからすっごい嬉しい!」
「あ、ありがとう」

 素直でまっすぐな言葉通り、きららちゃんはとても嬉しそうだ。愛くるしい彼女の笑顔を眩しく思いながら、私も微笑みを返した。