初対面でここまで顔を近付ける人間にこれまで私は出会ったことがない。視界を埋め尽くしても恐らくまだ私より小顔であろう彼のドアップと、はやし立てるような女子生徒の嬌声に耐え切れず、私は彼から顔を背けた。

「……て言うかこんな奴、同じ学年にいたっけ」
「いないよ。だって今日から転校することになったみたいだし」
「今日から? だってお前三年だろ?」
「私だって分かんないんだってば!」

 信号が青に変わる。
 誰か私に教えて欲しい。どうして私はこんな場所へ来てしまったのか。高校なんて二年も昔に卒業したはずなのに、どうしてまた学生生活をやり直さなくてはならないのか。

(そもそも社会人になった矢先にこの展開って!)

 早歩きで歩く私を、青年はしつこく追いかけて来た。

「なあ、どうして転校することになったんだ? 親の転勤?」
「だから分かんないんだって!」
「分かんない訳ねーだろ! お前の事情なのに……って、あ、おい!」 

 混乱に頭がついて行かず、たまらなくなって走り出す。
 通学路を歩く生徒を次々と追い越して行くと、やがて視線の先に学校の門が見えた。

 『私立蒼遥高等学校』、校門にはそう書かれている。
 息を切らしながら門をくぐると、私は職員室の場所を尋ねるために付近を歩いていた生徒に声をかけた。