「おい!」

 背後から発された低い声と共に、私の右手は強い力で引っ張られる。よろめいた私の身体は何者かによって抱き止められ、はっと我に返って顔を上げると、目の前を大型トラックが猛スピードで走り去って行った。
 危うく轢かれるところだった。肝を冷やしながら振り返れば、ブレザー姿の青年が眉根を寄せてこちらを見下ろしている。

「信号赤だぞ。何ボーっとしてんだ」
「あ……ありがとうございます」

 右手から伝わる体温を自覚した瞬間。
 私は吸い込まれるように、彼の顔を見つめた。

(か……かっこいい……)

 筋の通った鼻に、強い光を宿した瞳。少女漫画からそのまま飛び出して来たと形容するにふさわしいイケメンが、目の前に立っている。私の感想を裏付けるように、後ろからやって来た女子生徒のグループがきゃあっと黄色い悲鳴を上げた。

「ったく、新学期なんだからシャキッとしろよな。お前、何年?」
「え? えっと、三年らしいんだけど……」
「らしいって何だよ」

 彼はずい、と私の眼前に顔を寄せた。

(ち、近い……!)