(そうだ)

 ヒロミさんの言葉を思い出し、私はベッドから降りるとクローゼットを開ける。中には綺麗にアイロンが掛けられたセーラー服と学生鞄、そして身に覚えのない私服が数点しまわれていた。
 アパレルショップで算段をする客のように、私はハンガーで掛けられた洋服を確認して行く。花柄のワンピースに白いチュールのスカート。どれも質が良く、サイズも合いそうだったが、普段ファストファッションのブランドで無地の服ばかり購入している私にとっては、かわいすぎるラインナップに冷や汗が流れる。

 きっとこれは、夢だ。
 私は、夢を見ている。

 クローゼットを前に、私は腕を組んで考え込む。
 体質のせいか、普段から夢を見ることはほとんどなかった。ごくたまにやけにリアルな夢を見ることもあったが、目を覚ましさえすれば元通りだ。
 一方、今の自分は夢の中にいる。閉じられた空間にいる以上、目を覚ますためにできることはすぐには思いつかなかった。

(……とりあえず、夢から覚めるまでだ)

 壁に掛けられた時計を見ると、時刻は既に八時十分前を指している。急いで準備をして行かないと、ホームルームに間に合わなくなってしまうだろう。
 深くため息をつくと、私は渋々クローゼットの中からセーラー服を抜き出した。