「ちょっと、困りますお客さん!」

 天文台へ行った私を待っていてくれたタクシーのおじさんの声だ。
 慌てて階段を降りて見れば開いた窓に両手をかけ、長い髪を下ろした一人の男の娘(おとこのこ)が運転席に身を乗り出している。

「先約があるから、乗せられないんです!」
「どうしてよー! きらら、海羽ちゃんに会いに行かないといけないんだよ!」
「きららちゃん、一回落ち着こう……っぶくしゅ!」

 彼の左右には、見覚えのある二人の青年が立っていた。

「タクシーが駄目なら町まで走って行こうぜ。寒いし丁度あったまるだろ」
「やだ! こんな雪の中走って楽しいの、滉平だけじゃん!」
「織也くん、あれ……」

 目の前で繰り広げられる光景に、私は恐る恐る指を向ける。
 隣に立っていた織也くんも、溜息とともに首を横に振った。

「ーーまあ、なんだ。お前に会いたいと思ってたのは、俺だけじゃねえってことだな」

 行こうぜ、と囁いた彼の左手が、私の右手を優しく握りしめる。

「うん……!」

 再び始まる騒がしい日々に期待を膨らませながら、私達は皆の待つ方へと走り出した。

《完》