「……え……」

 少女漫画からそのまま飛び出して来たようなスタイル。
 見覚えのある、蒼黒(そうこく)のチェスターコート。
 声にならない声を上げた私に気付いたのか、織也くんはゆっくりと振り返った。

「……遅えよ、海羽」
「う……そ」

 せき止められていた感情がダムのように決壊し、目からぼろぼろと涙が零れる。
 目の前の現実が信じられなくて。
 それでも、彼の存在を確かめずにはいられなくて。
 無我夢中で走り出した私を、彼は強い力で抱き留めた。

「言ったろ。俺達はきっといつか、また会えるって」

 泣きじゃくる私を抱きしめたまま、織也くんは呟く。

「お前が、俺らの世界で欠けてた時間を補ってくれたんだろ?」
「……うん」
「海羽のおかげで、高校も、町も、俺らも助かったんだ。ありがとうな」

(それはつまり――)

 一度消えてしまったはずの皆が、生命を取り戻したと言う意味で。
 現に彼は、私の目の前にいる。

「良かった……良がったぁぁ」

 子供のように泣きじゃくる私を前に、織也くんは「泣き過ぎ」と笑い、手を伸ばすと涙を拭った。
 指先からじんわりと伝わる熱が、彼の存在を確かなものとして示している。
 骨ばったその手首には、藍色のミサンガが結ばれていた。