唇から漏れる白い息が空中に漂う。
 パンプスから入り込む雪で足がかじかむのも厭わず、私は雪が降り積もる階段をざくざくと進んで行った。

 人間と星の距離は、とてつもないほどに遠い。
 たかが数十段の階段を登ったところで、いくら星に姿を変えた人々を悼んだところで、地上にいる私達がその輝きを掴むことはできない。

 それでも、と私は感覚が麻痺して行く足を強く踏みしめる。

(やっぱり、もう一回、もう一回でいいから、皆に会いたいなーー)

 鼻の奥がつんと痛んだその時、目の前の視界が開ける。
 遮るものが何もない夜空の風景に、私は思わず息を呑んだ。

(ベテルギウスとシリウス。それからーーアルタイル)

 ビルとネオンの光がひしめき合う都会では、決して見ることができない。
 夜空をキャンバスにして作られた、地上のどんな造形物よりも大きな三角形だ。
 その美しい輝きに感動すると同時に、一人で三つの星を繋げられるようになってしまった現実に、一抹の寂しさを覚えた。

(あの時は、織也くんも一緒だったんだけどね)

 山の斜面にせり出した展望台に向かおうと、足を踏み出した瞬間ーー
 視線の先に佇む一人の青年の後ろ姿に、私は思わず足を止めた。