「車はここまでしか行けないから、あとは階段を登って行きな。お姉ちゃんが帰って来るまでここで待っててあげるから。ほら、雪降ってるしこれも」
「ありがとうございます」

 おじさんに差し出されたビニール傘を受け取り、私はタクシーの外へ出た。

「流星群、綺麗だったね」
「ねー! 来年も見に行きたいな」

 タクシーの後ろに止まっていたバンに、望遠鏡を抱えた親子が乗り込んで行く。
 天文台へ続く階段からは他にも数人のカメラを持った人々が既に降りて来ており、私は目の前が真っ暗になるのを感じた。

(終わっちゃったんだ、流星群……)

 心が空っぽになる感覚を覚えながら、呆然と夜空を仰ぐ。

(実は、少しだけ期待してた)
(この世界でも、流れ星に願えば叶うんじゃないかと思って……)

 天上には、壱師町で見たのと同じ、濃紺に宝石を流し込んだような美しい星空が広がっている。

(せめて、星だけでも見て行こう)

 私は小さく頷くと、下山する人々の流れに逆らうように階段を登って行った。