リコリス座流星群が、日本で一番綺麗に見られる場所。
 ゲームを開発していた頃にふと気になってインターネットで調べた時、とある内陸の町が検索結果に表示された。

(そもそもリコリス座流星群が実際に存在すること自体驚きだったんだけど)

 地図でその場所の地形を見た時の当時の衝撃は、今思い出すだけでも相当なものだった。
 駅前にある商店街。
 町内の山に設置された天文台。
 地形から町の構造に至るまで、全てが『エトワールの約束』の舞台となった壱師町と酷似していた。

(この町は、きっと熊谷プロデューサーにとって思い出の場所なんだ)
(大切な親友と、流れ星みたいに短い青春を過ごしたのも……きっと、この町だ)

 だから、決めたのだ。
 ゲームを完成させたら、この町からリコリス座流星群を見ることを。

「着いた……」

 予定時刻は30分ほど過ぎてしまったものの、何とか目的地の駅へ辿り着いた私は、突き刺すような外気の冷たさにぶるりと身震いをする。
 あまりの寒さに心がくじけそうになったが、急いで駅前の広場に停められたタクシーへと駆け寄った。

「すみません! 天文台まで連れて行ってください」

 コートの肩に雪を乗せたまま車内へ入って来た私に、運転手のおじさんは驚いて振り返る。

「今から? 山の方、まだ雪降ってると思うよ」
「いいんです。リコリス座流星群、今日観に行くって決めてたので」
「ああ、そう言えば今日が見頃だったね。それなら急いで行かないと」

 おじさんは納得したように頷くと、強くアクセルを踏み込む。
 雪が積もる中を走るタクシーは、ほどなくして山間の道路で停車した。