（……結城くんは、自分が熊谷プロデューサーのアバターであると思い込んでいた）
（でも、真実はそうじゃなかった）

　結城くんがエトワールの世界で生きる意味を、そして『ジュン』が結城くんを創り出した本当の理由を。
　彼自身がいつか知ることはあるのだろうか。

「……やっぱり、持って来て良かったですね。この花」

　重たい空気を遮るように、私はずっと握りしめていた彼岸花を手に立ち上がる。

「病院の人からはすごい目で見られてましたけど」

　燃えるように赤い彼岸花の由来は、その名の通り彼岸に咲く花であることによる。加えてその赤い色は火事や死を連想させるため、古くから不吉な花として忌み嫌われていた。

（それでも、二人にとっては特別な花だった）

　瞳を閉じると、数多の流星が降り注ぐ夜空が広がる。

「彼岸花ーー別名リコリス」

　そう呟いた亀山さんに合わせて、私は言葉を重ねた。

「花言葉は、『再会』」

　どうかこの花が、彼とあの世へ行ってしまった親友を繋ぐ架け橋となるように。
　幸せそうに微笑む二人の写真の前に、私はそっと花を置いた。