「あら、昨日挨拶したじゃない。この寮で寮母をしているヒロミよ。気軽にヒロミさんって呼んでね」
「寮?」
「あなたも高校三年生で突然転校することになって色々大変だと思うけど、健康面はきちんと私がサポートするから任せて頂戴ね」

 彼女の笑顔から悪意は感じられない。寝ているうちに悪の組織に誘拐されたとか、そんなオチではなさそうだ。

(にしても、高校三年生ってどういうこと)

 曲がりなりにも自分は既に新社会人である。未だに居酒屋に行けば年齢確認をされることの方が多いが、高校の思い出はもう何年も昔のことだ。
 事態を全く呑み込むことができないまま、私は言葉を返すこともできずに『ヒロミさん』を見つめる。彼女は「そう言えば」と指を顎に当てた。

「私もあなたの名前、もう一度聞いて良いかしら。確認しておきたくて」
「あ、有明海羽、ですけど……」
「海羽ちゃんね。誕生日は?」
「八月二日です」
「うん、覚えたわ。男性の好きなタイプも教えてくれる?」
「は?」

 誕生日の次に血液型を尋ねるような気軽さで発された質問に面食らう。