月日は巡り、新たな年が明けた頃。
 『約束のエトワール』のリリースを数日後に控えた私は、亀山さんに誘われて都内にある大学病院を訪れていた。

「急に呼び出してごめんね」

 一つに束ねた黒い髪が背中で揺れる。
 エレベーターに乗って病室の階を目指す間、亀山さんは静かな声で謝った。

「気にしないでください。むしろ私に声をかけてもらえるとは思ってなかったので……」
「私もね、本当は行こうかどうかずっと悩んでいたの。面会して、もしショックで動けなくなっちゃったらどうしようなんて考えると、怖くて。でも、そんなのってあんまりよね」

 そう呟くと、亀山さんはぐっと視線を持ち上げる。

「ずっと一緒に働いていた仲間なんだから、ちゃんと会いに行かないとって思って。有明さんが一緒に来てくれて、とても心強いわ。アムールゲームスを継いでくれる人が現れて、彼もきっと……喜ぶと思う」

 ありがとう、と彼女が呟いたところでエレベーターのドアが開かれる。
 化け物に出会った時のような驚愕の表情をこちらへ向ける病院のスタッフとすれ違いながら、私達はフロアの奥にある病室を目指した。