時は過ぎ、無事全員分のシナリオを完成させた私と横江さんは、亀山さんによるチェックを経て都内にある収録スタジオへと足を運んでいた。

 ガラスを隔てた向こうの防音室では、朝から声優さんによる台詞のレコーディングが行われている。
 今回『エトワールの約束』にキャスティングされたメンバーのほとんどはかつてアムールゲームスが発売したゲームに登場したことがあるそうで、隣に座る横江さんは「前日は眠れなかった」と台本を片手に興奮気味に話す。昼を過ぎ、休憩時間を迎える頃には彼女のテンションはピークに達していた。

「しがない部品メーカーで働いていた私が今まで崇拝してた声優さんの収録に立ち会えるなんて……ほんと、生きていると何が起こるか分からないわね」
「し、しがないは社長に失礼ですよ」

 トイレから出た横江さんは腕を組み、感慨深そうにため息をつく。

 アニメやゲームに疎かった私は声優さんに関する知識をほとんど持ち合わせていなかったものの、いざ収録に臨むとキャスト陣の想像を遥かに超える表現力の高さに脱帽した。

 当たり前のことだがキャストの面々はキャラクターと一度も言葉を交わしたことがない。それでも割り当てられた自らのキャラクターの性格を理解し、過去や立場を踏まえた上で一つ一つの台詞に生命を吹き込んで行く。言葉が声となって生まれていく様子をスタジオで聞いていると、蒼遥高校の生徒として過ごしていた日々に戻ったようで心が震えた。