「台詞はここに表示されるんですね」
「ええ。一般的なノベルゲームの形式と変わらないけど、乙女ゲームの場合だと、後は分岐なんてのもあるわね」
「分岐?」
「キャラクターの台詞に対して、返す答えを選べるの。例えば織也ってキャラが帰り道どっかで食べて帰ろうって誘ってくれたとして、牛丼屋にするかたこ焼き屋にするか選べるみたいな」
「本当に会話してるみたいですね」

 どちらを選んでもダメ出しが返って来そうだが。
 横江さんの説明に思わず噴き出しそうになりながらも、壱師町で生活していた時のことを思い出す。

(そう言えば、決まった答えを伝えないと話が進まないことがあったな)

 ヒロミさんに初めて出会った時にしつこく名前や誕生日を聞かれたことを始め、多々思い当たる節がある。それもゲームシステムに起因するものだとしたら、私が体験したことはますます夢とは思えなくなって来る。

「これからのスケジュールだけど……」

 オフィス内に用意されたホワイトボードとにらめっこをしていた亀山さんは、乾いた音を立ててマーカーのキャップを抜いた。