亀山さんがプログラマーの男性を連れてハイクレックスのオフィスへやって来たのは、それから数日が経った時のことだった。

「こちら私の後輩の福永さん。アムールゲームスの頃はプログラマーとして開発に関わっていました」

 銀縁のシンプルな眼鏡にひょろりとした体型が特徴的な男性だ。年齢は亀山さんとそこまで変わらないくらいで、休日は典型的なお父さんとして子供と一緒に公園で遊んでいそうな穏やかな雰囲気を醸し出している。

「福永さん、確か今はフリーランスで働かれているとか……」

 横江さんがそう言うと、福永さんは申し訳なさそうに頭を掻いた。

「会社が買収された後、最初にお声がけいただいた時は断ってしまってすみません。僕も今後のキャリアについては決めかねていたもので……けれど、亀山に説得されて協力することを決めました」
「ありがとうございます……!」

 心強い助っ人が二人も現れたことで、胸の中に安堵の気持ちが広がる。
 私が元の世界へ戻った後に起動しなくなってしまったプロトタイプは、福永さんの所有するエミュレーターによって解析がかけられた。

「一応データをリセットしたので、最初からストーリーを進められるようになっています」
「あ、ヒロミさんだ……!」

 福永さんが操作するノートパソコンの、画面の中央にヒロミさんのイラストが現れる。下部には『おはよう。紅茶を持って来たわよ』と台詞が書かれていた。