*
数日後、身体の異常はないと診断を受けた私は病院を退院した。
会社側からはしばらく休養を取るように勧められたが、狭い自宅で一人でいる方が気が狂ってしまいそうだ。退院後、私はすぐにハイクレックスのオフィスへ足を運んでいた。
「身体は大丈夫なの?」
私の前にペットボトルのミルクティーを置きながら、横江さんが言う。彼女が向かいのソファに腰を下ろすのを待ってから、私は「はい」と頷いた。
「こちらの仕事は変わりありませんか?」
「ええ。十日くらいじゃ何も変わらないから安心して」
彼女の返答に、もう何度目か分からない『そうだった』の感覚を体験する。
私が『エトワール』の世界で経験して来た一年間は、この世界に変換すると四月のほんの十日にしか該当しないようであった。
「……横江さん」
ミルクティーを口に含み、私は改めて切り出した。
「私が倒れる前の日に、横江さんが私にゲーム機と熊谷プロデューサーのファイルを貸してくださったこと、覚えてらっしゃいますか?」
「ええ。あなたの入院の準備をするついでに、一度持って帰ってしまったのだけれど」
退院して綺麗に片付けられた部屋を見た時、すぐに横江さんが整えてくれたのだと分かった。眠り続ける私の代わりに、きっと保険証や印鑑など必要なものを用意してくれていたのだろう。
勝手に持ち帰ってごめんね、と謝る彼女に「いや、いいんです」と慌てて首を振る。
数日後、身体の異常はないと診断を受けた私は病院を退院した。
会社側からはしばらく休養を取るように勧められたが、狭い自宅で一人でいる方が気が狂ってしまいそうだ。退院後、私はすぐにハイクレックスのオフィスへ足を運んでいた。
「身体は大丈夫なの?」
私の前にペットボトルのミルクティーを置きながら、横江さんが言う。彼女が向かいのソファに腰を下ろすのを待ってから、私は「はい」と頷いた。
「こちらの仕事は変わりありませんか?」
「ええ。十日くらいじゃ何も変わらないから安心して」
彼女の返答に、もう何度目か分からない『そうだった』の感覚を体験する。
私が『エトワール』の世界で経験して来た一年間は、この世界に変換すると四月のほんの十日にしか該当しないようであった。
「……横江さん」
ミルクティーを口に含み、私は改めて切り出した。
「私が倒れる前の日に、横江さんが私にゲーム機と熊谷プロデューサーのファイルを貸してくださったこと、覚えてらっしゃいますか?」
「ええ。あなたの入院の準備をするついでに、一度持って帰ってしまったのだけれど」
退院して綺麗に片付けられた部屋を見た時、すぐに横江さんが整えてくれたのだと分かった。眠り続ける私の代わりに、きっと保険証や印鑑など必要なものを用意してくれていたのだろう。
勝手に持ち帰ってごめんね、と謝る彼女に「いや、いいんです」と慌てて首を振る。
