「海羽ちゃん!」

 診察を終えて病室に戻り、ほどなくした頃に横江さんが私の元へやって来た。

「目が覚めて良かった……!」

 開口一番、彼女は私をぎゅっと抱きしめる。

「お医者さんからも聞いたと思うけど、十日も眠っていたのよ。あなたもクマPみたいになっちゃったらどうしようと思って……」

 目を真っ赤にさせ、横江さんが鼻声で言う。
 病変へ来る時に落ちたのだろう。彼女の薄手のカーディガンの肩に、桜の花びらが一枚付いていた。

「ご迷惑をおかけしてすみません。入社したばかりなのに」
「いいのよ、気にしないで」

 そう言って、不意に横江さんは私の胸元を指差す。

「ところであなた、そんな素敵なペンダント付けてたっけ?」
「え?」
「その胸元の。お見舞いに来た誰かがかけてくれたのかしら。綺麗ね」

 ゆっくりと私は視線を下ろす。
 水色の入院着の胸元から、藍色のガラスのペンダントが覗いていた。