「……え?」

 その時、ふわりと両足が浮かぶ感覚に私は驚いて目を開く。
 自分が宙に浮いていることに気付き、慌てて伸ばした私の両手を織也くんが握った。

「安心しろ。海羽」

 脳天で柔らかく渦巻く彼のうなじを、初めて見た気がする。
 モデルの彼は私よりもずっと背が高くて、いつだって自分は見下ろされていたのだ。
 そんな彼が今は私を見上げ、目を細めて微笑んでいた。

「俺達はきっといつか、また会える」

 そう言って、彼はぐいっと自身の方向へ腕を引っ張る。重力のない空間を漂う私は、容易く彼の元へ引き寄せられた。
 織也くんは私の耳元へ唇を寄せ、小さな声で囁く。

「そんで、次会えた時は――」

 俺がお前のこと、絶対落として見せるから。



 くすりと笑う声と共に、彼の手が離される。
 重力が反作用を起こすように、私の身体はあっという間に空中へ放り上げられた。

「わっ!」

 ロケットが打ち上げられるように、私は猛スピードで上空へと飛ばされて行く。
 遠ざかる校舎を、赤いバリアが覆い尽くすのが見えた。

「織也くん……!!!」

 辛うじて喉の奥から絞り出されたその声が、彼に届くことはなかった。