教室から転がるように飛び出し、廊下を走り出したところで私は違和感に気付いて立ち止まる。

「きららちゃん!?」

 振り返ると、きららちゃんが虚ろな瞳で廊下の真ん中に立ち尽くしていた。

「何してるの!? 早く逃げよう」
「逃げるって、どこに?」
「そんなの分かんないよ! でも、このままじゃバリアにーー」
「海羽ちゃん。私ね」

 彼の唇から発された抑揚のない声に、水銀のように冷たい液体がどろりと体内を下るような感覚がする。

「私ね、もういいんだ」
「おい、何言ってんだきらら」

 動揺する私達を制するように、静かな声できららちゃんは続けた。

「ここまで生きて来られただけで、私は幸せだったよ」

 こめかみのあたりで結われたリボンがほどけ、柔らかな髪がふわりと下に降りる。
 次の瞬間、きららちゃんは痛みを感じるほどの力で強く私を抱きしめた。

「海羽ちゃん、ありがとう。きらら、海羽ちゃんと友達になれて嬉しかった」
「きららちゃん……!?」
「ーー大好き」