「……来るぞ」

 閉め切った窓ガラスを振動させて、遠くで微かに地響きのような音がする。
 窓際に立ち、ずっと外を眺めていた織也くんが、ゆっくりとこちらを振り返った。

「ほら」
「?」

 人差し指でそばまで来るよう命じられ、私は彼の隣に立つ。
 人がいなくなったせいで窓から見える町の景色は照明が落とされ、過去に見えていた夜景よりも藍色の濃度がずっと深い。代わりにその暗い色に反発するように、赤色のバリアがじわじわとこちらへ向かって近付いて来ていた。

「見えるか? あのバリアの向こう側」

 彼が指さす先へ目を向けるが、私は首を横に振る。

「見えないよ……何も」

 透き通る赤色のバリア。その向こうの世界は何も存在していないかのように真っ暗闇だ。

「そうだ。この意味が分かるか?」

(バリアの向こうが、真っ暗闇の意味ーー)

「世界が、消えてる……?」

 閃いた瞬間、ドッドッドッ、と心臓が激しく脈を打ち始める。

「逃げるぞ!!」

 鋭い叫び声を合図に、私達は弾かれたように椅子を蹴って駆け出した。