ぱたた、と頬から滑り落ちた涙がプリントに染みを作る。
 ヨリに心配をかけさせたくまいと、私は咄嗟にセーラー服の袖で涙を拭った。

「……ねえ、幼馴染。これも、彼の忘れ物じゃないかな」

 手紙を封筒に収める私に、ヨリが一冊の文庫本を遠慮がちに手渡す。

「これ……」

 図書室へ足を運ぶといつも結城くんが読んでいた、『銀河鉄道の夜』だった。

「その物語なら、俺も読んだことがあるよ」

 本を受け取った私に、ヨリが静かな声で言う。

「悲しい話だよね。幼馴染は知ってる?」
「うん……あんまり覚えてないけど、友情をめぐる話だった気がする」
「そう。それも、死んだ親友とのね」

 トーンを落とした彼の声から、悲しみと諦めの色が伺える。

「ここには沢山本があるのに、彼はあえてこの本を選んだんだね」

(結城くんがこの本を好んで読んでいた『理由』……)

 鼻をすすり、私は手紙と本をぎゅっと胸に抱いた。