帰宅後、夕食と入浴を済ませた私はベッドを背に腰を下ろす。
 ここ数日、自分の予想を超える出来事ばかりが続いて現実について行くだけで精一杯だった。
 これから自分はどんな仕事を任されるようになるのだろう。
 本当にこの仕事は、自分の将来にプラスとなるのだろうか。

(……ま、いいか。元々夢なんてなかったし……)

 不安は尽きないが、一緒に働く横江さんの人柄がいいだけで今は十分だ。
 せめて仕事に関わる知識を付けておこうと、私は会社から持ち帰ったファイルを開いた。

(わ……なんかアナログなイラスト)

 表紙をめくると、アムールゲームスが初めてリリースしたゲームのチラシが収められている。ビニールのスリーブからチラシを抜き取って裏をめくると、スタッフの欄には『制作補助 熊谷准』と書かれていた。

(そっか。この頃熊谷さんはまだプロデューサーじゃなかったんだ)

 彼の名前を追いながら、私はアムールゲームスの歴史を辿ることにする。
 会社設立から約二年後にリリースした『シャルマン・アンジュ』が乙女ゲームの先駆けとしてヒット、その後は同シリーズの続編を中心にソフトを展開――

(全盛期は、ちょうど横江さんが学生だった頃なのかも)

 ページをめくるうちに、スマートフォン向けゲームの台頭を報じる新聞記事の切り抜きも多く目に付くようになった。切り抜きには蛍光ペンで印も付けられており、プロデューサーがじっくりと中身を読み込んだ形跡が窺える。横江さんは『アムールはスマホ化の波に乗り切れなかった』と話していたが、彼は彼なりに危機感を抱いていたのだろう。
 そしてファイルの最後のページには、アムールゲームスが倒産前に最後にリリースした作品である『シャルマン・アンジュ4』のビラが収められていた。