(この世界の人が消えるなんて情報は、プロデューサーの日記にも書いてなかった)
それなのに、どうしてこんなことが起こってしまうのか。
やり場のない思いを抱えて視線を動かすと、白いベンチが視界に入る。息も凍るような冷たい空気の中、蝉の音が鳴り響く真夏の景色が私の脳内にリフレインした。
太郎くんと彼の財布を盗んだミスティを追いかけた時のこと。
(彼は元々、名前を持たない生徒だった)
これまで主人公である私に積極的に関わって来たのは、いずれも自分の名前を持った人ばかりだった。彼は彼で所謂『モブキャラクター』として、平穏に高校生活を送ろうとしていたつもりだったらしい。
それがどんな運命の巡り合わせか私達と仲良くなり、きららちゃんによって『蒼遥太郎』というトンチキな名前を付けられ、クラスは違えど時には一緒に勉強をやり泥棒猫を追いかけ面白いことが会った時には教室で笑い転げ――今に至る。
(……太郎くんだけじゃない)
この一年近い期間の中で、数え切れないほどの瑞々しい感情を体験した。
それは合唱部での挫折をきっかけに燃え尽きてしまった私の心に、再び温かい炎が灯ったようで。
望んでもいない、クラウチングスタートだって上手く切れないままに大人になってしまった私が体験することができた、紛れもない、私の人生におけるもう一つの『青春』だった。
「あ……」
休み時間の終了を告げるチャイムの音が鳴り響き、目の前の風景が元に戻る。
そのベンチには、誰も座っていなかった。
それなのに、どうしてこんなことが起こってしまうのか。
やり場のない思いを抱えて視線を動かすと、白いベンチが視界に入る。息も凍るような冷たい空気の中、蝉の音が鳴り響く真夏の景色が私の脳内にリフレインした。
太郎くんと彼の財布を盗んだミスティを追いかけた時のこと。
(彼は元々、名前を持たない生徒だった)
これまで主人公である私に積極的に関わって来たのは、いずれも自分の名前を持った人ばかりだった。彼は彼で所謂『モブキャラクター』として、平穏に高校生活を送ろうとしていたつもりだったらしい。
それがどんな運命の巡り合わせか私達と仲良くなり、きららちゃんによって『蒼遥太郎』というトンチキな名前を付けられ、クラスは違えど時には一緒に勉強をやり泥棒猫を追いかけ面白いことが会った時には教室で笑い転げ――今に至る。
(……太郎くんだけじゃない)
この一年近い期間の中で、数え切れないほどの瑞々しい感情を体験した。
それは合唱部での挫折をきっかけに燃え尽きてしまった私の心に、再び温かい炎が灯ったようで。
望んでもいない、クラウチングスタートだって上手く切れないままに大人になってしまった私が体験することができた、紛れもない、私の人生におけるもう一つの『青春』だった。
「あ……」
休み時間の終了を告げるチャイムの音が鳴り響き、目の前の風景が元に戻る。
そのベンチには、誰も座っていなかった。
