「え、皆で旅行!?」

 気温の上がらない日差しがさし込む昼休み。
 教室の中央で向かい合わせに並べた四つの机に、きららちゃんが笑顔で大量のパンフレットを広げて行く。

「そう! 冬休みの間にね、旅行代理店に行って情報集めて来たんだ」

 私の向かいで「よく持って来たな、こんなに沢山」と巨大な唐揚げ弁当を食べる風間くんが目をぱちくりとさせる。その隣でかなたは表情を変えずにいちご牛乳のパックのストローをくわえた。

「行くなら近場にしてよ。それから暑くも寒くもないところがいい」
「つーかかなたは進学しないのな。話聞いてびっくりしたわ」

 高校卒業後、かなたは音楽事務所に所属して本格的にサウンドクリエイターの道を歩むつもりらしい。

 日を追うごとに着々と決まって行く彼らの進路は、当たり前だが皆バラバラで――
 夢に向けて踏み出そうとする彼の様子が嬉しくもあり、名残惜しくもある。

「……まあ、今だって曲作ってお金もらってるから、働いてるようなもんだし」
「とは言え卒業したら皆それぞれ違う生活になっちゃう訳だし。ねっ! 折角だから計画しよう」

 自然が楽しめる北海道、食い倒れの大阪、沖縄の青い海。
 パンフレットには見ただけで心が躍りそうな単語が並んでいる。
 もし皆で行くことができれば、どんなに楽しいだろう。

(……そう)
(もし、行くことができれば――)

 胸が痛むのを感じながら、それでも盛り上がる三人を悲しませたくなくて、私は無理に笑顔を作ると彼らと一緒に手元のパンフレットをめくった。