「何かを始めるにも一人より二人の方が楽しいもの、やっぱり」
「確かに趣味とかでも一緒に話せる人がいたら嬉しいですよね」

 私の言葉に、「でしょ?」と横江さんは頬を紅潮させる。

「それに私、昔から周囲の人間を自分の沼に引きずり込むのが大好きなの! これまで何も知らなかった人が自分の好きなものにどんどん呑み込まれて夢中になって行く姿、想像しただけでゾクゾクしない?」

 ハルト対レオの争いよろしく、油断していると彼女は突拍子もない発言を投下して来ることをすっかり忘れていた。『沼』とは一体なんなのだろうか。自分にはよく分からなかったが、少なからず彼女と行動を共にしていると未知の世界に引き落とされそうな気がしてなんだか怖い。

「海羽ちゃんが乙女ゲームの沼にハマってくれること、楽しみにしているわね」
「あ……あはは……」

 危険な発言とは裏腹の、大和撫子を体現したような彼女の優美な笑顔を前に、私は乾いた笑いを返すほかなかった。