「こんなこと言われたらウザいよね、ごめんね。でも分かんないの。何なんだろう、何かとてつもなく嫌なことが起きそうな気がして……」

 どうしてそう考えてしまうのか、実際のところ彼自身も良く分かっていないのだろう。俯く彼の表情から、珍しく強い迷いの感情が読み取れる。

(……元々、きららちゃんは鋭い性格だった)

 蒼遥高校の生徒としての生活を初めてから、友達としての立場で親しく接してくれたきららちゃんとの日々を思い出す。
 彼はこの世界の『主人公』である私と、『攻略対象』である面々を繋ぐ役割を進んで担ってくれていた。彼らについてきららちゃんは時に十分過ぎるほどの情報を私に与え、私や彼らが窮地に陥った時は自らの明るいキャラを活かして力を貸してくれた。

(そんな彼だからこそ、何か感じることがあるのかも)

 彼の不安を取り除こうと、私は出来る限り優しい声で語り掛けた。

「私がきららちゃんを嫌いになることなんてあり得ないよ。理由もなく大切な友達を裏切ったりなんて絶対にしない。だから安心して」
「ありがとう。ごめんね、変な話して」

 沈んだ空気を振り払うように、きららちゃんは笑顔で顔を上げると両手をぱちんと合わせた。