グレーのセーターに覆われた、ちゃんと食べているのか心配になるくらい細い後ろ姿を追いかけると、彼は一番奥の本棚の前で足を止めた。

「一番上の段の右上に、隙間があるでしょ?」

 彼の言葉に、私は視線を上へ向ける。文庫本がぎっしりと敷き詰められた本棚の右上には、確かに本が一冊抜き取られたような隙間ができていた。

「ここにあったのは、この本」

 そう言って、彼は持っていた文庫本を見せる。
 私が図書室を訪れる前に彼が読んでいたであろう、『銀河鉄道の夜』だ。

「この本を、元の場所に戻して欲しい」

 わざわざ私に行動させると言うことは、何か裏があるのだろうか。

(突然爆発したりしたら嫌だな……)

 そう思いつつ手渡された文庫本を言われた通り隙間へ戻すと、かちり、とボタンが押されるような音がした。

「!」

 重苦しい音が響き渡り、あろうことか目の前の本棚が地面の下へと呑み込まれて行く。