「……あれ」

 廊下の端にぼんやりと灯る明かりに、私は思わず足を止める。そう言えば、文化祭に向けて準備を進めいていた頃も、あの部屋には電気が灯っていた。

 図書室と書かれた看板の下で立ち止まり、私は中の様子を伺う。

(誰かいるのかな)

 薄くドアを開いて覗いてみるが――
 煌々と電気がついているものの、室内には誰もいないようだ。

「失礼します」

 周囲を見回しながら、私は恐る恐る図書室の中へと入る。

 天井に届く高さの本棚には、隙間なく本が敷き詰められていた。閲覧に使用する椅子はわずかな乱れもなく机に納まっていて、人が使用した痕跡が見受けられない様子がやや不自然な印象だ。

 室内を進んで行った私は、司書が利用する机の上に一枚のメモが置かれていることに気付く。
 メモの中身を読んだ私は、はっとして辺りを見回した。

「『屋上庭園で待っています』……?」

 果たして自分に宛てて書かれたものかは分からなかったが、妙な胸騒ぎを覚える。

(これも、何かの伏線かもしれない)

 この世界の人々との出会いは、いつも唐突なのだ。私はメモを握りしめると、図書館を出て屋上へ向かった。