甘いパンケーキとは裏腹に、頭の中にはブラックコーヒーのように苦い記憶が蘇る。
「私が通ってた学校はね、これまで一度も全国大会の出場を果たしたことがなくて、いつもギリギリのところで県大会敗退って状態が続いてた。私が部長に選ばれた時、絶対に皆で全国に出場する夢を叶えたいと思って、色んなトレーニングやハードな練習メニューを組んだの。でも、部員は付いて来てくれなかったんだ」
瞳を閉じれば、痛々しい当時の記憶が蘇る。
閉め切った音楽室で、私を睨み付ける部員は泣きそうな表情で言った。
『私達、苦しむために合唱部に入ったんじゃありません』
入部したばかりの頃は、皆が同じ方向を向いていたはずなのに。
いつからか自分だけが違う方向を向いていたことに、その時私は初めて気付いた。
「私だって、歌うことを楽しみたくて、皆で歌う幸せを共有したくて合唱部に入ったはずだったのに……当時の私はちっとも音楽を楽しんでなかったんだ」
仲間割れに部員の突然の退部を繰り返し、予想通り最悪のコンディションで望んだコンクールは県大会突破はおろか前年の成績に届くことすらできなかった。
その後私はひっそりと合唱部を引退し、以降は合唱と一切関わることのない人生を歩む。
「だからこそ、まさかこの世界でもう一回合唱に向き合えるなんて思いもしなかったけど」
この世界へ迷い込む前、横江さんが話していた言葉を思い出す。
(乙女ゲームは、『現実では実現できなかった夢を叶えてくれる場所』ーー)
私は顔を上げ、こちらを見つめる二人に笑顔で応えた。
「歌の楽しさを思い出させてくれて、ありがとう」
「私が通ってた学校はね、これまで一度も全国大会の出場を果たしたことがなくて、いつもギリギリのところで県大会敗退って状態が続いてた。私が部長に選ばれた時、絶対に皆で全国に出場する夢を叶えたいと思って、色んなトレーニングやハードな練習メニューを組んだの。でも、部員は付いて来てくれなかったんだ」
瞳を閉じれば、痛々しい当時の記憶が蘇る。
閉め切った音楽室で、私を睨み付ける部員は泣きそうな表情で言った。
『私達、苦しむために合唱部に入ったんじゃありません』
入部したばかりの頃は、皆が同じ方向を向いていたはずなのに。
いつからか自分だけが違う方向を向いていたことに、その時私は初めて気付いた。
「私だって、歌うことを楽しみたくて、皆で歌う幸せを共有したくて合唱部に入ったはずだったのに……当時の私はちっとも音楽を楽しんでなかったんだ」
仲間割れに部員の突然の退部を繰り返し、予想通り最悪のコンディションで望んだコンクールは県大会突破はおろか前年の成績に届くことすらできなかった。
その後私はひっそりと合唱部を引退し、以降は合唱と一切関わることのない人生を歩む。
「だからこそ、まさかこの世界でもう一回合唱に向き合えるなんて思いもしなかったけど」
この世界へ迷い込む前、横江さんが話していた言葉を思い出す。
(乙女ゲームは、『現実では実現できなかった夢を叶えてくれる場所』ーー)
私は顔を上げ、こちらを見つめる二人に笑顔で応えた。
「歌の楽しさを思い出させてくれて、ありがとう」
