流星とジュネス

「どうしても俺を高校に通わせたくないみたいだね」
「……」
「ここまでだ。ありがとう、ヒロイン。ヒロインだけじゃない……色んな人が俺と関わってくれたこと、感謝してる」
「駄目だよ、諦めちゃ!」

 私は腰を下ろして肩から下げていた鞄を近くへ放り投げる。そしてバリアへ両手を伸ばし、かなたの左右の掌を強く握った。

「不登校の設定とか関係ない。かなたは蒼遥高校の生徒なんだよ。これからかなたは毎日学校に通って、卒業までずっと三年一組のクラスメイトと一緒に過ごすんだよ」

 驚いた表情を浮かべるかなたの瞳をまっすぐに見つめ、私は言葉を繋ぐ。

「ヒロインーー私なんかいなくたって、かなたは学校に通える。通いたいって気持ちがあれば、絶対にこの世界のルールを変えることはできるんだから!」

 三白眼の瞳が所在なく揺れる。私を見つめていた視線が地面へ落とされ、やがてかなたは小さな声で呟いた。

「……ずっと、行きたいと思ってた。一度でいいから、普通の高校生みたいな生活を送ってみたかった」
「自分の部屋で、もう何年も一人で過ごして来たんだ。ヒロインが現れるもっと前、この世界ができた日から、俺はずっと一人で、誰とも親しくなることを許されなくて」

(だからかなたはピアノが上手なんだ)

 彼を見つめたまま。私は思う。

「俺だって今回限りでもう一生会えないなんて嫌だよ。もっと皆と音楽がやりたいし、色んな話もしたい。一人じゃなくて沢山の人が集まることで、新しい音楽が生まれることだって知った。だから、俺だって、俺だって……!」

 顔を上げたかなたの瞳と真っ直ぐにぶつかり合う。そして、彼は腰を上げると陸上選手がスタートを切る時のようなフォームで私の元へ飛び込んだ。