翌日、乙女ゲームについて知りたいと言った私を前に張り切った横江さんは「習うより慣れろよ。とりあえず会社から出ましょう」と私をハイクレックスのビルから連れ出した。

 地下鉄に乗り、やって来たのは秋葉原駅だった。

「アキバなんて昔は男性向けの電気街だったけど、今は女性も楽しめる町になっているのよ」

 散策はおろか下車すらしたことのない私に反して、横江さんは慣れた足取りで人混みの中をすいすいと歩いて行く。外国人観光客でごった返す大通りを歩き、辿り着いたのは『ゲームメイト』と書かれた巨大なビルだった。
 店内へ入る横江さんの後ろ姿を、私はきょろきょろと辺りを見回しながら追って行く。店内にはバリトンボイスの男性が歌うキャッチーな音楽が大音量でかかり、商品の棚には所狭しと新刊の漫画やらイラストが描かれた雑誌やらが並べられていた。

「乙女ゲームのフロアは確か三階だったわね」

 フロアマップの前で頷いた横江さんに続き、狭い階段をのぼって行く。息を切らして目的の階へ到着すると、天井から吊るされている『乙女ゲーム』と書かれた大きな看板が目に入った。

「わあ……」

 目の前に広がる光景に、思わず驚きの声が漏れる。
 フロア内には昨日横江さんに見せてもらったゲームソフトのようなイケメンが描かれたグッズが沢山置かれていて、さながら未開の地を発見してしまった開拓者のような気分だ。