二学期が始まり、三年一組のクラスでも文化祭へ向けた出し物の準備が本格的に行われるようになった。
 合唱部は相変わらず高校へ通えないかなたのために学校以外の練習場所で準備に励んでいる。彼を責めるつもりはなかったが、中には日頃から使い慣れている校内の音楽室で活動がしたい部員もいるのではないか。そう思った私はそれとなくパート練習に励む低学年に声をかけてみた。

「毎回練習が校外だと大変じゃない?」

 女子生徒は譜面に書き込んでいた手を止め、親しみのある笑顔をこちらへ向ける。

「いえ、桐生先輩が練習に付き合って下さるだけでもありがたいです。それに、公民館なら広いスペースを使って劇の準備もパート練もできますから」

 自分達が歌を歌える環境があることに、感謝をする。
 どこまでも謙虚な姿勢に胸を打たれると同時に、不躾な質問をしたことを私は少しだけ恥ずかしくなった。

 ブブブ、とポケットに入れていたスマートフォンが震える。画面を開くと、きららちゃんから手伝いを求めるメッセージが届いていた。

「あ、私、そろそろクラスの準備に戻るね」

 そばにいた朋花ちゃんとかなたに声をかける。

「海羽さん、引っ張りだこですね。お気を付けて」
「本番前に倒れないようにしなよ」
「ありがとう」
「あ、そうだ。鶴子、ちょっと話したいことが」

 朋花ちゃんに呼びかけるかなたの声を背に、私は公民館を後にした。