「……Oh happy day」

 脳内にこびりついた旋律が唇から漏れ出る。
 『Oh Happy Day(オー・ハッピー・デイ )』。
 高校三年生の時に取り組んだこの曲で、私は高校生活最後の全国大会への出場チャンスを逃した。

「When Jesus washed……」

 讃美歌を原曲として作られたこの曲は、ゴスペルのジャンルに分類される。『神が全てを洗い流した』、つまりは神による許しを喜び、祝うために歌われるこの曲は全体を通して明るく開放的なメロディラインが特徴だ。

(……だけど)

 この曲によって、私の心が晴れたことは一度もない。

『私達は、部長のエゴを満たすために部員をやってるんじゃありません』
『部長のやり方には付いて行けません。部活も辞めさせてもらいます』

 あえて考えないことで忘れようとしていた苦い記憶が蘇り、ため息と共に私は鍵盤から手を離す。
 私が犯した罪は、高校を卒業して三年が経っても心の中から洗い流されることはない。許されることも、多分一生ないだろう。

「……神様なんて、いる訳ないよ」

 口をついて出た私の呟きは、黒い靄をまとって空中に消えた。