公民館に集まった一同を、朋花ちゃんは輪になるように集合させる。夏休み中の練習にも関わらず、総勢十五名ほどの合唱部員はほとんどが参加していた。
 用意した譜面を配り終えたところで、朋花ちゃんは輪の中心に立って声を上げる。

「三年で話し合い、今年の文化祭ではミュージカルをやることになりました」

 彼女の言葉に、低学年から驚きの声が上がる。

「これまでのコンサートでは一つのテーマを元に何曲かを披露する形を取っていましたが、今年は劇仕立てで公演を一つの流れにしたら楽しいのではないかと言う話になりました。何か質問はありますか?」

 輪の中から一人の男子部員が手を挙げる。

「ミュージカルは全員がキャストとして参加するんですか?」
「いえ、大がかりなものになると衣装や小道具の準備も大変になるので、メインキャラクターを五人ほど決めて、後はコーラスとして舞台で歌う形になると思います……そう言えば」

 朋花ちゃんは小首を傾げ、悪戯っぽく笑って見せる。

「あなたは三年の間で主役の候補として上がっていますが、いかがですか?」

 ええっ、と男子部員の驚きの声と共に集団が笑いに包まれる。

「ミュージカルなんて初めてじゃない?」
「大変そうだけど、なんか楽しそう」

 盛り上がる部員の様子を眺めながら、いいなあ、と私は青春モノの映画を鑑賞した時のような甘酸っぱい気持ちを噛みしめる。

(私にもこんなに楽しい部活の思い出があれば――)

 隣の芝生は青い。朋花ちゃんをリーダーに活動する合唱部の姿は、私の高校時代よりもずっとずっと鮮やかで美しく見えた。