「勘弁してよ」

 マンゴーがたっぷり乗ったパフェを前に、かなたは顔をしかめた。
 日中に行けば多分いるはずーー私の目論見通り、翌日朋花ちゃんと二人で駅前のファミレスを訪れると、窓際のテーブル席でかなたくんはヘッドホンを耳に装着してノートパソコンに向かっていた。

「海羽さんから伺いました。桐生くん、ピアノがとても上手なんですよね。どうか合唱部に力を貸して欲しいんです」
「だから無理だって」
「なんなら私と朋花ちゃんでそのパフェ奢るよ」
「そう言う問題じゃないから!」

 大きくため息をつき、かなたはノートパソコンを閉じた。

「あのさヒロイン、この前も言ったよね。俺は高校には通わない主義だって」
「別に高校に通えって言ってる訳じゃないよ」
「そうです! 文化祭の日、ちょっと舞台に出てもらうだけでいいんです」

 なおも引き下がる私と朋花ちゃんに対し、かなたは「無理だよ」と不機嫌な表情で唇を噛んだ。

「俺、通えないんだ。物理的に」
「どういうこと?」
「一緒に通学路歩いてみれば分かるよ。信じられないと思うけど、歩いても歩いても、俺は学校に辿り着くことができない」
「……?」

 思わず隣を見ると、朋花ちゃんの顔に『ちょっと言っている意味が分かりません』と書かれている。確かに私にも理解しがたい話だったが、同じタイミングでヨリと初めて出会った日のことを思い出した。