「お願いです。文化祭で開く合唱部のコンサートの伴奏をやってくれませんか?」
「伴奏を!?」
「はい。文化祭は九月なので夏休み中も少しずつ練習したいと思ってたんですが、伴奏を担当するはずだった部員が夏休み初日にプールで転んで腕を骨折してしまって……」

 合唱において伴奏者が欠けているのは致命傷だ。
 本当なら二つ返事で代打を引き受けたいところだったがーー

「……ごめん」

 頭を下げる彼女を前に、私は首を振る。

「私、確かに合唱部だったんだけど、ピアノはからきしで……」

 私の返事を受け、朋花ちゃんはしょんぼりとうなだれた。

「そうですか……そんな都合良くは行きませんよね」

 突然押しかけたりしてごめんなさい、と逆に謝られてしまい、申し訳ない気持ちになる。

「他の音楽系の部活も文化祭は発表のスケジュールが入ってますし、誰か引き受けてくれる方が見つかるといいんですけど……」
「そうだ」

 頭の中に、骨ばった手が奏でる三拍子のメロディが蘇る。
 きょとんと顔を上げた朋花ちゃんに、私は打ち明けた。

「一人、思い当たるピアニストがいるんだけどーー」