*
「ちょうどマドレーヌ焼いたところだったのよ。遊びに来てくれて嬉しいわ」
ダイニングテーブルに向かい合って座る私と朋花ちゃんの間に、ヒロミさんがこんもりとマドレーヌが乗った皿を置く。彼女は「ありがとうございます」と、礼儀正しく背筋を傾けた。
「この前はありがとう。太郎くんの財布を見つけてくれて」
朋花ちゃんはミスティに奪われた財布を中庭で見つけてくれた女子生徒だった。
「あの子、実は校長先生の飼い猫だったんだよ」
そんな話をすれば彼女は「そうだったんですね。かわいかったなあ」と表情をほころばせる。純朴な雰囲気が親しみを感じさせる女の子だった。
「ところで朋花ちゃんは合唱部だったんだね」
「はい。この前も中庭で発声練習をしていたんです」
それで早速お願いなんですが、と朋花ちゃんは身を乗り出した。
「噂で聞きました。海羽さん、実は中学生の頃から合唱やってたって」
「えっ?」
突然自分の話を引き合いに出されてどきりとする。
確かに日頃高校で過ごしていると転校前の出来事を聞かれる機会も少なくなかったため、何度か自分の経歴を人に話したことがあった。
「確かに朋花ちゃんの言う通りだけど……」
心の中で、ざわりと不穏な胸騒ぎがする。
予想通り、彼女は黒い髪を揺らして頭を下げた。
「ちょうどマドレーヌ焼いたところだったのよ。遊びに来てくれて嬉しいわ」
ダイニングテーブルに向かい合って座る私と朋花ちゃんの間に、ヒロミさんがこんもりとマドレーヌが乗った皿を置く。彼女は「ありがとうございます」と、礼儀正しく背筋を傾けた。
「この前はありがとう。太郎くんの財布を見つけてくれて」
朋花ちゃんはミスティに奪われた財布を中庭で見つけてくれた女子生徒だった。
「あの子、実は校長先生の飼い猫だったんだよ」
そんな話をすれば彼女は「そうだったんですね。かわいかったなあ」と表情をほころばせる。純朴な雰囲気が親しみを感じさせる女の子だった。
「ところで朋花ちゃんは合唱部だったんだね」
「はい。この前も中庭で発声練習をしていたんです」
それで早速お願いなんですが、と朋花ちゃんは身を乗り出した。
「噂で聞きました。海羽さん、実は中学生の頃から合唱やってたって」
「えっ?」
突然自分の話を引き合いに出されてどきりとする。
確かに日頃高校で過ごしていると転校前の出来事を聞かれる機会も少なくなかったため、何度か自分の経歴を人に話したことがあった。
「確かに朋花ちゃんの言う通りだけど……」
心の中で、ざわりと不穏な胸騒ぎがする。
予想通り、彼女は黒い髪を揺らして頭を下げた。