スマートフォンの画面に、ピアノの鍵盤が大写しになる。骨ばった手が鍵盤に添えられると、ピアノから華やかな三拍子の旋律が流れ始めた。

『祝・アニメエンディング採用!』
『kanataさんのピアノが好き過ぎる』

 そんな弾幕のようなコメントが画面を覆い尽くす。
 スマートフォンを手にベッドへ寝転がる私は、動画サイトに投稿されたかなたの演奏に釘付けになっていた。

(かなた、すごい人気あるんだ)

 先日のナンパ男が称していた通り、かなたは『kanata』の名義で、サウンドクリエイターとして活動しているようだった。動画サイトにはオリジナル曲から人気楽曲のカバーまであらゆる作品が投稿されていて、いずれも視聴してみると高校三年生が手掛けたものとは思えぬクオリティの高さだ。プロフィール画面に表示されたフォロワー数からも、彼がいかにネット上で支持されているかを推し量ることができる。

 動画に夢中になっていると、不意に階下からヒロミさんの声が聞こえた。

「海羽ちゃーん! お友達が遊びに来てるわよ」
「あ、はーい! 今行きます」

 慌てて部屋を出て階段を降りる。
 玄関に向かうと、セーラー服姿の一人の女の子が立っていた。

「あの、えっと……」

 そばかすの散る顔に笑みをたたえ、彼女はぺこりと頭を下げた。

「合唱部部長の、鶴見朋花(つるみともか)です」