「……じゃあどうして高校に入学したの?」
「お、鋭いね」

 この世界のルールは分からないが、高校は義務教育ではない。通うのが嫌ならそもそも入学しない選択もあったはずだ。
 かなたはわずかに満足げな笑みを浮かべた後、ご褒美にあげる、とパフェに乗っていたウエハースを私の皿に乗せる。つくづく掴めない青年だった。

「蒼遥生である理由……それは、俺が『不登校キャラ』として作られた存在だからだよ」
「作られた存在……?」
「そして、こんな形で俺の前に現れる人間は一人しかいない。君はこの世界の『ヒロイン』だね」
「……」

 この世界で生きる人々は、自身が作られた存在であることを知っている。そして名前を持って主人公である私の前に現れる人物は、ずっと主人公である私を待っていた。
 初めて出会った日に話していた、そんな織也くんの言葉が蘇る。

「じゃあ私とかなたは今日、必然的に出会うことになってたんだ」
「うん。今日何か変わったことはなかった?」
「すごくハンバーグが食べたくなって、ファミレスに来た」
「ほら」

 私が無性にハンバーグを食べたくなったのも、ファミレスでかなたと出会うためだったのだと彼は私に言いたいのだろう。鼻先に付いたクリームを親指に取り、かなたはぺろりと舌を出して舐める。