「クマPは面白いゲームを次々生み出す名プロデューサーとしてファンの間でも有名でね。彼の作品がプレイしたくてアムールのゲームをやり込む女の子も少なくなかった。そんなクマPがうちの社長と仲良しだっただなんて、ハイクレックスに勤める私からしたらどんな偶然よって感じだけど」
「そのクマPさんって方は、今どこへ?」

 アムールゲームスの立役者なら、彼の力なくしては事業を引き継ぐことはできないのではないか。気になったことを尋ねると「クマPは……」と、横江さんは俯いた。

「クマPは、アムールの社長が夜逃げして会社が解散した翌日に自宅のマンションから飛び降りた。命は取り留めたけれど、今も意識不明のまま入院しているそうよ」
「……」

 入社早々聞かされるショッキングな現実。
 言葉を失う私の前で、横江さんは唇を噛みしめた。

「うちの社長も話してたわ。『彼はきっと、いっぱいいっぱいだったんだ』って。激務が祟ってほとんど寝てなかったって言うチームメンバーの証言もある。時代が変わってアムールのゲームが世間から受け入れられなくなっても、クマPは最後まで会社のために尽くしていたはずなのに……」

 まるで自分のことのように、苦しげな表情を浮かべる横江さんの様子に胸が痛む。
 しばらく押し黙っていた彼女は「ごめんね」と苦笑いを浮かべて顔を上げた。