ハイクレックス株式会社・アムールゲームス部。
　デスクが並べられたオフィスでは今日も社員が慌ただしく行き交っている。

「横江先輩、プレス向けの資料の原稿できたら教えてください」
「了解。後でひーくんも店舗購入特典の発送確認して、プロデューサーに伝えといてね」

　その様子は、さながら文化祭の準備に追われる教室のようで。
　ゲームがリリースされる直前のオフィスの様子は、いつもスタッフによるどんちゃん騒ぎが繰り広げられていた。

「お先に失礼します」

　明日できることは、とりあえず明日やる。

　デスクの上に明日処理する書類をまとめ、私は鞄を手に立ち上がった。

「あ、私も帰ります！」

　同じタイミングで立ち上がったのは、今年の四月に入社したばかりの新入社員だ。

「穂波ちゃんももう終わり？　じゃ、一緒に帰ろ」
「はい！」

　膝丈のパステルピンクのスカートを履いた穂波ちゃんが、にっこりと微笑む。
　一日中忙殺された後でも疲れを見せないその若さを眩しく思いながら、私は彼女と共にオフィスを後にした。