・【花ズッキーニと】


「じゃあ楽しみに待ってますねぇーっ!」
 ハナマさんがカフェに来て下さったので、調理開始。
 一応、アレルギーの確認をすると、そこで重大なことが判明した。
『私は動物のお肉があんまり好きじゃないんですっ、何か美しくないというかぁ。特に挽肉なんてちょっと気持ち悪いですよねっ!』
 ……助かった。
 私たちのメニューは挽肉を使わない。
 挽肉の案も出たけども却下になっていて良かった。
 さて、本格的に料理の開始だ。
 まず私は事前に薄く切っていた長ネギをフライパンで炒める。
 基本的にオリーブオイルで炒め、最後に香り付けにバターを入れる予定だ。
 そして琢磨ははんぺんを袋のまま潰す作業。
 今日も琢磨は包丁を使わず手だけだ。
 というか包丁を使う工程は事前に私がやっていたので、あとは混ぜたり詰めたりするだけだ。
 琢磨は、潰したはんぺんと、背わたをとって粗く包丁で叩いた海老と、和風だしの粉末を合わせて混ぜて、海老しんじょうを作っていく。
 そして私は長ネギが半透明になってきたところで、小麦粉を入れて、ゆっくり牛乳を何回か分けて入れていき、ホワイトソースを作る。
 ホワイトソースの味付けは塩コショウのみ。
 あくまでメインは花ズッキーニなので、ホワイトソースはそれだけでいい。
 また長ネギの甘みが出るので、砂糖などを入れる必要も無い。
 ホワイトソースを慌てず、じっくり作っている間に琢磨は花ズッキーニの花を一ヶ所だけ開き、めしべはとって。
そこに海老しんじょうを詰めていき、花の先端をねじって止める。
 こういう細かい作業は割と琢磨が得意で、そこはもう完全に任せている。
 ちなみに琢磨は外にあるハーブを摘むことも得意だ。
 私は結構大雑把にやってしまうほうだ。
 決して雑な性格なわけではない。
 大胆不敵、むしろ大胆素敵だといっていいだろう。
 さて、そんなお洒落な駄洒落はいいとして、ホワイトソースはヘラからポタポタ落ちるほどに固まればOKとなる。
 ホワイトソースのフライパンは一旦置いといて、別のフライパンで海老しんじょうを詰めた花ズッキーニを焼き始める。
 花ズッキーニのズッキーニのほうに、少し塩をかけてから焼く。
 どうせ裏返したりしているうちに、別のところにも塩気がいくけども、それはまあいいとして。
 そして焼き終えたら皿に盛り付け、そこにホワイトソースをできるだけお洒落に掛けていき、完成だ。
 ちなみに焼くのは私がしたが、ホワイトソースを掛けるのは琢磨だ。
 こういうのを芸術的に垂らすのは、琢磨のほうが上手い。
 悔しいけども。
 さて、完成した皿をハナマさんに差し出した。
 果たして、反応は……!
「わぁっ! 美しいです! 花ズッキーニって食べてみたかったんですぅ!」
 最初のリアクションは上々だ。
 あとは味だ。
「じゃあまず花のほうから……! プリプリの海老とふわふわのはんぺんがおいしいですねぇっ! 口の中が楽しいですぅ!」
 どうやら海老しんじょうのほうはバッチリみたいだ。
「次はズッキーニとホワイトソースを……! おいしいですぅっ! とろとろのホワイトソースの優しい甘みにほどよい塩気が、ズッキーニのサクサク具合とマッチしてとてもおいしいですねぇっ! プリプリ、ふわふわ、サクサク、とろとろ、食感がいろいろ楽しいですっ!」
 良かった……今回は何か叫んで喜ぶというよりも安心したという感じだ。
 噂が尾びれ背びれついてきたけども、その噂に勝てたという安心感が強かった。
「花ズッキーニの黄色、ズッキーニの緑、そこにホワイトソースの自然な白、とても美しくてまるで絵画っ」
 あっ、絵画も好きだったんだ。
 あながち大間違いではなかったんだ。
 絵画のくだり。
「私の望みを聞いてくれてありがとうですぅっ!」
 そう言って私よりも近くに立っていた琢磨を、ハナマさんはイスに座った状態から抱き寄せて、なんと琢磨の頬にキスをしたのだ!
 ちょっ! 何それ! どういうことっ?
 私は一気に怒り心頭となった。
 でも琢磨は冷静に、
「ありがとうございます。ハナマさん」
 と言って優しく微笑んだ。
 何かそのリアクションも一段と怒りに拍車が掛かったが、今怒りだしたらせっかくの料理も台無しなので、黙っていた。
 そしてハナマさんは帰って行って、琢磨も何か厨房に行って、残った私はこの怒りの原因を改めて考えだした。
 いや実際なんで怒っちゃったんだろうな。
 そうだ、そうだ、別に怒るポイントなんて無いよ、無い、無い。
 何で琢磨の頬にハナマさんがキスしただけで、こんなに怒っちゃったのかな。
 いやあるわ。
 怒るポイントあったわ。
 琢磨にだけご褒美みたいなことして、私には何も無かったじゃん。
 その差に怒っていたんだわ、私。
 何だ、納得した、これで納得した、はぁ、良かったぁ。
 ……でも、琢磨が冷静にハナマさんへ微笑んだことも腹立ったんだよな。
 それは何でだろう。
 あぁ、あれだ。
 琢磨が『美園(オミソ)にもご褒美したほうがいいですよ』って言わなかったからだ。
 だから腹立ったんだ。
 あぁ、完璧に納得したわ。
 ……多分。
 その後。
 ハナマさんからエディブルフラワーを差し入れでもらった時に、エディブルフラワーでも良かったんだと分かった。
 そのもらったエディブルフラワーである、パンジーやモクレンを乗せたサラダを出したら嬉しそうにモシャモシャ食べていたので、本当に大丈夫だったらしい。