・
・【ハナマさんは派手好き】
・
妻籠宿は五月八日に花まつりという、玄関先に花を飾る祭りがある。
普段から花を飾っている家もあるが、この花まつりの日はなお派手に花を飾る。
そんな花まつりのあやかしさんが、ハナマさんだ。
ハナマさんは派手なので、カフェの中から外を見ただけでも一目瞭然で分かる。
「あっ、ハナマさんだ、今日も派手だね」
「そうだな、オミソは地味で申し訳ないって感じだけども」
「たとえ地味でも謝ってはいないし! というか派手で美しいオーラ出ちゃってるし!」
「黄色いモヤみたいなオーラがプ~ンとな」
「オナラじゃないし!」
「大丈夫、大丈夫、派手で美しいオナーラ出ちゃってるよ」
「オナーラって何だよ! だからオナラのオーラも出してないし、オナラのオーラってもはやオナラだろ!」
「というか女子がオナラ・オナラ言うなよ、クサいな」
「じゃあまず女子にクサいって言うな! というかオナラのフリは琢磨から出したんでしょ! 琢磨がこいたんでしょ!」
「こいたって言うな」
「というか私はハナマさんの話がしたいのに!」
「ハナマさんは派手だよな、生花を服に付けているから時折花びらが落ちるんだよな」
そう、ハナマさんは自分を剣山のようにして生花を付けているので、花びらが落ちる。
花びらが落ちると観光客にも花びらだけは見えるようになるので、急に花びらが落ちてきたな、って、観光客が驚く時がある。
不思議な現象はあやかしさんがしているとよく言うが、全くもってその通りなのだ。
「本当、ハナマさんは自分を剣山にしているからね」
「いやなんかハナマさんがトゲトゲしているみたいに言うな、明るく楽しいあやかしさんだろ」
「いや剣山はたとえだよ」
「だからって自分を剣山にしているじゃ、触れるモノ皆傷つけるみたいじゃん」
「そんな思春期のナイフみたいに言ってないし」
「いや思春期のナイフってなんだよ、思春期にナイフのようにキレている青年ならまだしも」
「言い間違えたのっ!」
「思春期のナイフって何? いろんなこと考えちゃって集中していないから、なかなか切れないナイフ?」
「いやだから言い間違えたって言ってるし!」
「よくそんな言い間違えたり、分かりづらいたとえするよな。一緒にいて飽きないわぁ」
「いつかは絶対飽きさせてやるからな!」
「いやいや、絶対飽きない、だってオミソは馬鹿すぎなんだもん。一生笑っていられるわ」
「というか一緒にいなきゃいいんだ!」
「……そう」
そう言って一瞬寂しそうな表情をしてから、厨房に入っていった琢磨。
いや何よ、その表情。
論破されたらすぐそういう態度って印象悪いと思う!
というか私だって論破するんだから!
そういうこともあるだろうと予測しながら生きていけ!
それにしても琢磨、時折厨房に入っていくけども、何しているのかな。
まあいいや、こっちはこっちで仕事もあるし、無視しておこう。
琢磨がいなきゃ、悪口を言われる心配も無いし。
あっ、誰か入って来た、というか誰だかはすぐ分かった。
ハナマさんだったから。
「いらっしゃいませ!」
「年中花まつりのハナマちゃんですよー!」
明るくダブルピースしながらカフェに入って来たハナマさん。
相変わらず明るく楽しいあやかしさんだなぁ。
「とは言え、本番の花まつりは過ぎたばっかりなんですよねーっ!」
「そうですね、五月八日が花まつりで、今は五月の終わり頃ですもんね」
「ここで気分が上がっちゃうような、美しい料理を食べてみたいなぁっ! って! 思っているんですよーっ!」
「そうなんですか、美しい料理なんて私も食べてみたいですっ」
「そこで! ツバツさんの話は聞いていますよーっ! 美園ちゃんと琢磨くんがオーダーした料理を作ってくれるサービスをしているんですってねぇっ!」
……いや、何か噂が変な広がり方を見せている!
これが噂というヤツか! 口伝えの恐ろしさ!
「いっ、いや、そんな大層なモノでもないし、たまたまなんですよねっ」
「たまたまだなんて、またまたーっ! 謙遜しなくていいんですよっ! 美園ちゃんと琢磨くんの献身性は話題沸騰中!」
どうしよう、めちゃくちゃ期待されている。
さすがに私たちはまだまだだし……と思っていたら。
「いいですよ、是非作らせて頂きます」
後ろから声が。
というか琢磨だ。
琢磨が自信満々に立っていた。
「さすが琢磨くん! 作ってくれるんですねぇっ! もう今から楽しみーっ!」
私はすぐさま琢磨のほうに行き、小声でこう言った。
「そんな安請け合いして失敗したらどうするのっ?」
「失敗したら子供なんですみませんでいいじゃん」
「いや子供を言い訳に使うなって」
「いいんだよ、子供は言い訳に使えるんだよ、子供なんだから挑戦するべきなんだよ。じゃあ大人になってから初めて挑戦して失敗したほうがいいか?」
「いや、じゃあ、子供のうちに失敗しておいたほうがいいけども……」
「というか大丈夫、俺とオミソなら大丈夫だ……それとも」
ん? 何そんなちょっとまゆ毛を八の字にしちゃって。
情けない表情だな、笑っちゃおうかな。
「俺と一緒は嫌か?」
まゆ毛は八の字だけども真剣な瞳で私を見つめてきた琢磨。
いや、いやいや、別に嫌ではないけども。
嫌なんて強い感情は持っていないけども。
というか止めてよ。
そんな真剣に見ないでよ。
でも見ないでよと言うのもあれだし。
そうだ、こう言えば止めてくれるかもしれない。
「いや、嫌じゃないけども……」
そう言うと八の字のまゆ毛も真剣な瞳も止めて、何だか安心しきった優しい瞳になって、
「じゃあ一緒にまた考えようよ」
と言って笑った。
何だろう、時折見せる琢磨のこういう感じ。
何か変だけども。
何か変だけども。
嫌いじゃないなぁ。
「うん、一緒に考える……」
そう私が言うと、琢磨は空気をスゥと吸って、ハキハキこう言った。
「俺とオミソで美しい料理作ってみせます!」
「やったぁーっ! 私楽しみに待ってますからねぇーっ!」
そしてハナマさんは、今回は普通にケーキとハーブティを頼んで、カフェでまったり過ごし、帰って行った。
さぁ、今日のあやかしさんサイド、閉店からいろいろ考えるぞーっ。
・【ハナマさんは派手好き】
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妻籠宿は五月八日に花まつりという、玄関先に花を飾る祭りがある。
普段から花を飾っている家もあるが、この花まつりの日はなお派手に花を飾る。
そんな花まつりのあやかしさんが、ハナマさんだ。
ハナマさんは派手なので、カフェの中から外を見ただけでも一目瞭然で分かる。
「あっ、ハナマさんだ、今日も派手だね」
「そうだな、オミソは地味で申し訳ないって感じだけども」
「たとえ地味でも謝ってはいないし! というか派手で美しいオーラ出ちゃってるし!」
「黄色いモヤみたいなオーラがプ~ンとな」
「オナラじゃないし!」
「大丈夫、大丈夫、派手で美しいオナーラ出ちゃってるよ」
「オナーラって何だよ! だからオナラのオーラも出してないし、オナラのオーラってもはやオナラだろ!」
「というか女子がオナラ・オナラ言うなよ、クサいな」
「じゃあまず女子にクサいって言うな! というかオナラのフリは琢磨から出したんでしょ! 琢磨がこいたんでしょ!」
「こいたって言うな」
「というか私はハナマさんの話がしたいのに!」
「ハナマさんは派手だよな、生花を服に付けているから時折花びらが落ちるんだよな」
そう、ハナマさんは自分を剣山のようにして生花を付けているので、花びらが落ちる。
花びらが落ちると観光客にも花びらだけは見えるようになるので、急に花びらが落ちてきたな、って、観光客が驚く時がある。
不思議な現象はあやかしさんがしているとよく言うが、全くもってその通りなのだ。
「本当、ハナマさんは自分を剣山にしているからね」
「いやなんかハナマさんがトゲトゲしているみたいに言うな、明るく楽しいあやかしさんだろ」
「いや剣山はたとえだよ」
「だからって自分を剣山にしているじゃ、触れるモノ皆傷つけるみたいじゃん」
「そんな思春期のナイフみたいに言ってないし」
「いや思春期のナイフってなんだよ、思春期にナイフのようにキレている青年ならまだしも」
「言い間違えたのっ!」
「思春期のナイフって何? いろんなこと考えちゃって集中していないから、なかなか切れないナイフ?」
「いやだから言い間違えたって言ってるし!」
「よくそんな言い間違えたり、分かりづらいたとえするよな。一緒にいて飽きないわぁ」
「いつかは絶対飽きさせてやるからな!」
「いやいや、絶対飽きない、だってオミソは馬鹿すぎなんだもん。一生笑っていられるわ」
「というか一緒にいなきゃいいんだ!」
「……そう」
そう言って一瞬寂しそうな表情をしてから、厨房に入っていった琢磨。
いや何よ、その表情。
論破されたらすぐそういう態度って印象悪いと思う!
というか私だって論破するんだから!
そういうこともあるだろうと予測しながら生きていけ!
それにしても琢磨、時折厨房に入っていくけども、何しているのかな。
まあいいや、こっちはこっちで仕事もあるし、無視しておこう。
琢磨がいなきゃ、悪口を言われる心配も無いし。
あっ、誰か入って来た、というか誰だかはすぐ分かった。
ハナマさんだったから。
「いらっしゃいませ!」
「年中花まつりのハナマちゃんですよー!」
明るくダブルピースしながらカフェに入って来たハナマさん。
相変わらず明るく楽しいあやかしさんだなぁ。
「とは言え、本番の花まつりは過ぎたばっかりなんですよねーっ!」
「そうですね、五月八日が花まつりで、今は五月の終わり頃ですもんね」
「ここで気分が上がっちゃうような、美しい料理を食べてみたいなぁっ! って! 思っているんですよーっ!」
「そうなんですか、美しい料理なんて私も食べてみたいですっ」
「そこで! ツバツさんの話は聞いていますよーっ! 美園ちゃんと琢磨くんがオーダーした料理を作ってくれるサービスをしているんですってねぇっ!」
……いや、何か噂が変な広がり方を見せている!
これが噂というヤツか! 口伝えの恐ろしさ!
「いっ、いや、そんな大層なモノでもないし、たまたまなんですよねっ」
「たまたまだなんて、またまたーっ! 謙遜しなくていいんですよっ! 美園ちゃんと琢磨くんの献身性は話題沸騰中!」
どうしよう、めちゃくちゃ期待されている。
さすがに私たちはまだまだだし……と思っていたら。
「いいですよ、是非作らせて頂きます」
後ろから声が。
というか琢磨だ。
琢磨が自信満々に立っていた。
「さすが琢磨くん! 作ってくれるんですねぇっ! もう今から楽しみーっ!」
私はすぐさま琢磨のほうに行き、小声でこう言った。
「そんな安請け合いして失敗したらどうするのっ?」
「失敗したら子供なんですみませんでいいじゃん」
「いや子供を言い訳に使うなって」
「いいんだよ、子供は言い訳に使えるんだよ、子供なんだから挑戦するべきなんだよ。じゃあ大人になってから初めて挑戦して失敗したほうがいいか?」
「いや、じゃあ、子供のうちに失敗しておいたほうがいいけども……」
「というか大丈夫、俺とオミソなら大丈夫だ……それとも」
ん? 何そんなちょっとまゆ毛を八の字にしちゃって。
情けない表情だな、笑っちゃおうかな。
「俺と一緒は嫌か?」
まゆ毛は八の字だけども真剣な瞳で私を見つめてきた琢磨。
いや、いやいや、別に嫌ではないけども。
嫌なんて強い感情は持っていないけども。
というか止めてよ。
そんな真剣に見ないでよ。
でも見ないでよと言うのもあれだし。
そうだ、こう言えば止めてくれるかもしれない。
「いや、嫌じゃないけども……」
そう言うと八の字のまゆ毛も真剣な瞳も止めて、何だか安心しきった優しい瞳になって、
「じゃあ一緒にまた考えようよ」
と言って笑った。
何だろう、時折見せる琢磨のこういう感じ。
何か変だけども。
何か変だけども。
嫌いじゃないなぁ。
「うん、一緒に考える……」
そう私が言うと、琢磨は空気をスゥと吸って、ハキハキこう言った。
「俺とオミソで美しい料理作ってみせます!」
「やったぁーっ! 私楽しみに待ってますからねぇーっ!」
そしてハナマさんは、今回は普通にケーキとハーブティを頼んで、カフェでまったり過ごし、帰って行った。
さぁ、今日のあやかしさんサイド、閉店からいろいろ考えるぞーっ。