・
・【サヨナさんは異性が良い】
・
「さぁっ! 美園ちゃんの愛の料理! 楽しみに待ってるぜ!」
私と琢磨は厨房に入った。
今回作る料理はキャベツのキムチ鍋だ。
豆苗の根元をカットし、バラバラにし、キャベツは豆苗のような細さに千切りし、豚バラ肉を入れてキムチ味の鍋で煮る料理。
さてと、早速私がキャベツを千切りにしようかなと思ったその時、琢磨が先にまな板の前に立った。
いやいや。
「琢磨は味付けのほうやって」
すると、琢磨は首を横に振って、
「俺が千切りするよ」
と言ってキャベツと包丁を持った。
えっ。
「琢磨は包丁使えないでしょ?」
「いや、もう大丈夫なんだ。俺もこれから包丁を使うよ」
「いやいや! 急に包丁とか危ないよ!」
と言うと、厨房にいた田中さんがこう言った。
「ううん、琢磨くんは時間がある時に厨房で包丁の練習をしていてね。私たちが見ている前でやっていたからもう完璧だよっ」
……! そうか!
たまに琢磨が厨房のほうに行くと思ったけども、そういうことだったんだ!
というか!
「何で黙ってたんだっ!」
「いいじゃん、何か練習してるって言うの恥ずかしくてっ」
「何も恥ずかしくないし!」
「でもこれで、もう、オミソに任せっきりじゃないな」
そう言ってキャベツの千切りをし始めた琢磨。
まだちょっとたどたどしい部分もあるけども、一生懸命な横顔がなんだか誇らしかった。
さてと、じゃあ私は味付けのほうをしようかな。
キムチを入れるだけでは味が締まらないので、酒、本物の味噌、コチュジャン、琢磨が固執していたおろしたにんにく、ごま油、オイスターソース、おろしたショウガ、おろしたタマネギを入れて、スープは完成。
そこに豚肉、キムチ、豆苗、キャベツを入れてキムチ鍋の完成だ。
キムチ鍋を持って、サヨナさんのテーブルに出した。
「これはアツアツで心の底からアツアツになれそうだなっ! いただきます!」
そう言って、小皿にとりわけたサヨナさん。
箸で具を掴んだその時。
「ちょっと熱そうだな! 美園ちゃん! フーフーしてくれないかなっ!」
と甘えてきたので、どうしようかなと思う間も無く、琢磨が優しくフーフーして、
「どうぞ、食べて下さい」
「いや俺は美園ちゃんに言ったんだけども」
「誰の空気でも同じはずです」
「いや全然違うだろ」
「足りなかったですか?」
「……はぁーーーー、もういいよっ」
そう長い溜息をついてから食べ始めたサヨナさん。
その長い溜息が一番冷ませそうだなと思った。
さてさて、味はどうだろうかっ。
「……んっ! キムチのピリ辛さが豚肉の脂をサッパリさせるなぁっ! キャベツと豆苗の歯ごたえもちょうど残っていて旨い!」
どうやらおいしかったみたいだ。
ホッと一息。
この息はあんまり冷ませそうにないな。
「よーしっ! 来月の下旬の和智埜神社祭礼は盛り上げるぞーっ!」
そう言っても、あやかしさんはいざ本気の舞台には立てないよなぁ、とは思った。
観光客には見えないから。
まあ水を差してもアレなので、私はそう言ったサヨナさんを盛り上げるために、小さく拍手をしていると、その手をガッと掴んできたサヨナさん。
そして。
「美園ちゃんも楽しみに待っていてくれよな!」
「はっ、はい!」
急なことでビックリしたけども、すごい熱量だなぁ、と感心した。
あっ、でもこういうことするとまた何か琢磨が怒るんだよな、と思ったら、琢磨は特に何も反応を見せなかった。
普通にまあこういうこともあるでしょ、みたいな感じだった。
……何その感じ。
えっ、何か、無いの?
そう思った時、心の中がすごくモヤモヤしてきた。
というか何かイライラしてきた。
ヤバイ。
怒っていない琢磨に私が怒っている。
いや何で。
琢磨の怒りの感情が私にうつってきたのかな?
いやいやそんな非科学的なことがあるか?
いやまあ、あやかしさんという非科学的な存在が目の前にいるけども。
何で怒っているんだろう、私。
まるで琢磨に怒ってほしかったみたいな。
いやいや、琢磨が怒るとまた空気悪くなるし嫌だよ。
じゃあ何なんだ、この感情は。
モヤモヤが止まらない……うぅぅ……。
そうなった瞬間に琢磨が私に話し掛けてきた。
「……どうした? オミソ、何か疲れているのか?」
「馬鹿だな、琢磨。美園ちゃんが疲れているはずないじゃないか! いつも元気で可愛らしい子だよ!」
「いやだって、何かちょっと心が重たくなったような感じになったからさ」
……あっ、琢磨だけが気付いてくれている。
何か嬉しいな、やっぱりずっと一緒にいるから気付いてくれるんだ、と思った時。
私のモヤモヤが急にスッと晴れていった。
一体何だったんだろう、この一瞬の呪いみたいなヤツ。
でもまあ晴れて良かった。
それにっ。
「琢磨! 気付いてくれてありがとう! よく分かんないけどもう治ったし大丈夫だよ!」
そう言うと、何か考えているような感じのサヨナさん。
そして大きく息をつき、立ち上がった。
「やっぱり親密度が高いヤツのほうが分かるってことだな! 負けたよ! 琢磨! 今日のところはなっ!」
そう言って帰って行ったサヨナさん。
あれ、まだ食べ終えていないんじゃと思ったら、もう食べ終えていて、まあ完食しているんだったら良かった良かった。
でも、負けたって何だろう?
あぁ、料理が旨くて上手くて負けたみたいなとこかな。
あっ、今日の依頼、料理バトルだったんだっ。
危ない! でも勝てた! 良かった!
私は勢いよくバンザイをすると、それに合わせて琢磨もバンザイした。
「何それ、私を馬鹿にしているの? らしくないじゃん、バンザイなんて」
「いいじゃん、オミソと同じ気持ちを味わいたいじゃん」
「じゃあ馬鹿にしているわけじゃないんだっ」
「うん、俺はオミソと同じがいいだけ」
そう言って優しく微笑んだ琢磨。
この時、何かモヤモヤとは別の何か、変な胸の高鳴りを感じた。
もしや不整脈かっ!
……私は小学五年生にしてやっぱり老化が進んでいるようです……。
その後。
サヨナさんがお礼にミニ神輿を担いでいるところを見せてあげると言って、私と琢磨で見た。
でも一人分サイズの小さい神輿が上下に動いているところ見ても何かなぁ、と思った。
やっぱりデッカイ和智埜神社祭礼の神輿が見たいと思った。
・【サヨナさんは異性が良い】
・
「さぁっ! 美園ちゃんの愛の料理! 楽しみに待ってるぜ!」
私と琢磨は厨房に入った。
今回作る料理はキャベツのキムチ鍋だ。
豆苗の根元をカットし、バラバラにし、キャベツは豆苗のような細さに千切りし、豚バラ肉を入れてキムチ味の鍋で煮る料理。
さてと、早速私がキャベツを千切りにしようかなと思ったその時、琢磨が先にまな板の前に立った。
いやいや。
「琢磨は味付けのほうやって」
すると、琢磨は首を横に振って、
「俺が千切りするよ」
と言ってキャベツと包丁を持った。
えっ。
「琢磨は包丁使えないでしょ?」
「いや、もう大丈夫なんだ。俺もこれから包丁を使うよ」
「いやいや! 急に包丁とか危ないよ!」
と言うと、厨房にいた田中さんがこう言った。
「ううん、琢磨くんは時間がある時に厨房で包丁の練習をしていてね。私たちが見ている前でやっていたからもう完璧だよっ」
……! そうか!
たまに琢磨が厨房のほうに行くと思ったけども、そういうことだったんだ!
というか!
「何で黙ってたんだっ!」
「いいじゃん、何か練習してるって言うの恥ずかしくてっ」
「何も恥ずかしくないし!」
「でもこれで、もう、オミソに任せっきりじゃないな」
そう言ってキャベツの千切りをし始めた琢磨。
まだちょっとたどたどしい部分もあるけども、一生懸命な横顔がなんだか誇らしかった。
さてと、じゃあ私は味付けのほうをしようかな。
キムチを入れるだけでは味が締まらないので、酒、本物の味噌、コチュジャン、琢磨が固執していたおろしたにんにく、ごま油、オイスターソース、おろしたショウガ、おろしたタマネギを入れて、スープは完成。
そこに豚肉、キムチ、豆苗、キャベツを入れてキムチ鍋の完成だ。
キムチ鍋を持って、サヨナさんのテーブルに出した。
「これはアツアツで心の底からアツアツになれそうだなっ! いただきます!」
そう言って、小皿にとりわけたサヨナさん。
箸で具を掴んだその時。
「ちょっと熱そうだな! 美園ちゃん! フーフーしてくれないかなっ!」
と甘えてきたので、どうしようかなと思う間も無く、琢磨が優しくフーフーして、
「どうぞ、食べて下さい」
「いや俺は美園ちゃんに言ったんだけども」
「誰の空気でも同じはずです」
「いや全然違うだろ」
「足りなかったですか?」
「……はぁーーーー、もういいよっ」
そう長い溜息をついてから食べ始めたサヨナさん。
その長い溜息が一番冷ませそうだなと思った。
さてさて、味はどうだろうかっ。
「……んっ! キムチのピリ辛さが豚肉の脂をサッパリさせるなぁっ! キャベツと豆苗の歯ごたえもちょうど残っていて旨い!」
どうやらおいしかったみたいだ。
ホッと一息。
この息はあんまり冷ませそうにないな。
「よーしっ! 来月の下旬の和智埜神社祭礼は盛り上げるぞーっ!」
そう言っても、あやかしさんはいざ本気の舞台には立てないよなぁ、とは思った。
観光客には見えないから。
まあ水を差してもアレなので、私はそう言ったサヨナさんを盛り上げるために、小さく拍手をしていると、その手をガッと掴んできたサヨナさん。
そして。
「美園ちゃんも楽しみに待っていてくれよな!」
「はっ、はい!」
急なことでビックリしたけども、すごい熱量だなぁ、と感心した。
あっ、でもこういうことするとまた何か琢磨が怒るんだよな、と思ったら、琢磨は特に何も反応を見せなかった。
普通にまあこういうこともあるでしょ、みたいな感じだった。
……何その感じ。
えっ、何か、無いの?
そう思った時、心の中がすごくモヤモヤしてきた。
というか何かイライラしてきた。
ヤバイ。
怒っていない琢磨に私が怒っている。
いや何で。
琢磨の怒りの感情が私にうつってきたのかな?
いやいやそんな非科学的なことがあるか?
いやまあ、あやかしさんという非科学的な存在が目の前にいるけども。
何で怒っているんだろう、私。
まるで琢磨に怒ってほしかったみたいな。
いやいや、琢磨が怒るとまた空気悪くなるし嫌だよ。
じゃあ何なんだ、この感情は。
モヤモヤが止まらない……うぅぅ……。
そうなった瞬間に琢磨が私に話し掛けてきた。
「……どうした? オミソ、何か疲れているのか?」
「馬鹿だな、琢磨。美園ちゃんが疲れているはずないじゃないか! いつも元気で可愛らしい子だよ!」
「いやだって、何かちょっと心が重たくなったような感じになったからさ」
……あっ、琢磨だけが気付いてくれている。
何か嬉しいな、やっぱりずっと一緒にいるから気付いてくれるんだ、と思った時。
私のモヤモヤが急にスッと晴れていった。
一体何だったんだろう、この一瞬の呪いみたいなヤツ。
でもまあ晴れて良かった。
それにっ。
「琢磨! 気付いてくれてありがとう! よく分かんないけどもう治ったし大丈夫だよ!」
そう言うと、何か考えているような感じのサヨナさん。
そして大きく息をつき、立ち上がった。
「やっぱり親密度が高いヤツのほうが分かるってことだな! 負けたよ! 琢磨! 今日のところはなっ!」
そう言って帰って行ったサヨナさん。
あれ、まだ食べ終えていないんじゃと思ったら、もう食べ終えていて、まあ完食しているんだったら良かった良かった。
でも、負けたって何だろう?
あぁ、料理が旨くて上手くて負けたみたいなとこかな。
あっ、今日の依頼、料理バトルだったんだっ。
危ない! でも勝てた! 良かった!
私は勢いよくバンザイをすると、それに合わせて琢磨もバンザイした。
「何それ、私を馬鹿にしているの? らしくないじゃん、バンザイなんて」
「いいじゃん、オミソと同じ気持ちを味わいたいじゃん」
「じゃあ馬鹿にしているわけじゃないんだっ」
「うん、俺はオミソと同じがいいだけ」
そう言って優しく微笑んだ琢磨。
この時、何かモヤモヤとは別の何か、変な胸の高鳴りを感じた。
もしや不整脈かっ!
……私は小学五年生にしてやっぱり老化が進んでいるようです……。
その後。
サヨナさんがお礼にミニ神輿を担いでいるところを見せてあげると言って、私と琢磨で見た。
でも一人分サイズの小さい神輿が上下に動いているところ見ても何かなぁ、と思った。
やっぱりデッカイ和智埜神社祭礼の神輿が見たいと思った。