珍しく私は早く起きる。
まあ、それでも海音のほうが早いのだけれど。
「あれ、姉貴早いじゃん。腹でも減った?」
「今日からまた仕事だし、朝のこの時間、大切にしたいしね。」
こういうことを言えて本当にうれしい。
「もうすぐ飯できるから、準備しておいてくれ。」
「分かったー。」
ここまでにおいが漂ってくる。それだけで美味しいと感じてしまう。
準備を終わらせて、私は食卓へと向かう。
「うん、美味しい。」
「姉貴にそう言ってもらえると、俺もうれしいよ。」
「ありがとう、海音。」
「あ、そうそう。姉貴、コンビニ弁当だって言ってたから作っておいたよ。」
そう言って私の前に置かれたのは紛れもない、弁当箱だった。
「これで、昼も一緒だろ。」
そう言って海音は自分の分もテーブルの上に置く。
「本当に、ありがとう、海音。」
「どういたしまして。」
やっぱこの世界は最高だ。
そして今だから言える。

この世のすべてに、ありがとう。

あらすじ
水無月文音は人から「ありがとう」を言ってもらえない日々が続いていた。
そんな中で文音も、弟の海音も寂しさを募らせていく。
そんな中、文音は「味覚忘却症」だと言われる。
おまけに、通常ではありえない「すべての味覚」を忘れてしまっていた。
このままでは死んでしまう。
海音は動き出す。だけど、海音自身もどうすることができない。
最悪の日々、何もできない。
しかし、思わぬところから海音はヒントを得る。
そして海音は、文音を助けるために文音の会社に乗り込むという大胆なことをする。
それが功を奏し、病院で文音に「ありがとう」お言うことに成功する。
文音も海音の「ありがとう」が引き金となり、自らの味覚を取り戻すことに成功したのです。