「じゃ俺、この後大学で講義が入ってるから」

 爽やかに言ってのける誠さんへ、嵐のように頭の中で文句が吹き荒れた。

 それらは次から次へと浮かび、上手く口を出ていってくれない。

 取っ捕まえてやろうと、手を伸ばして手の中の物に気付いた。

「ちょっと、これ! イヤーカフ!」

 忘れていたイヤーカフ。
 ずっと握っていて、開いた掌に痕がついていた。

「あんたが持ってて。俺、あんたとまた話したい」

 誠さんも泣いていると思ったのに、爽やかな顔にはちっとも変化はない。

 何が? どうなっているの?
 だって何もかもが……嘘ってこと?

 楽しそうに去っていく誠さんを呆けた顔で見送り、動けずにその場に佇んだ。

 ただ、頬はヒリヒリして、目は腫れぼったいのが分かるくらいに重たい。