「あの……さ。声を掛けるタイミングに困るんだけど」

 小さな声がして顔を上げると、涙で滲む視界の中に誰かが立っていた。

 誠さんと同じエプロンをしていて、誠さんより少し小柄で。

 滲んでいるせいか、しみったれた男性のように感じた。

「勝手に人を死んだことにしないでくれない?」

 ぎこちなく笑った顔は、微かな記憶の中の微笑みと一致して、涙でぐちゃぐちゃになった視界を拭って改めて見てみる。

 やっぱりしみったれた風貌の男性は、困ったような顔をして微笑んでいた。

 枯れることのないと思えた涙は止まっていて、呆然とその人を眺めた。