モヤモヤした気持ちのまま、1日を過ごした。先生の授業もほとんど頭に入ってこないし、最悪だ。ただ、部活の先輩はきちんと僕の事情を知っているから、『今日ぐらい良いよ、帰っても』と有難いことを言ってくれたので、お言葉に甘えることにした。

朝とは逆方向の電車に揺られること30分、最寄駅へとたどり着いた。僕は列車を降りたのだが、その瞬間、歌が聴こえてきた。毎年この日に聴こえてくる、あの歌。
少し物悲しくて、それでいて、力強い。
儚く繊細なメロディが、僕の鼓膜を震わせる。
思わず顔を上げてあたりを見渡すけれど、その発信源と思しき人物は見当たらなかった。何なんだろうと思うが、あまりキョロキョロしていると怪しく思われるので、ひとまず駅を出て、駅前のロータリーの駐輪場に停めた自転車にまたがった。

ペダルを漕ぎ、自転車を進める。たい焼き屋さんがあって、もう少し行くと靴屋があり……
そんないつもの景色が流れていく時にも、ずっとあの歌が聴こえてくる。そしてそれは、自宅へ近づくにつれ大きくなっていく。
自宅近くの公園の前を通ろうとした時、僕はその声をすごく近くに感じた。自転車を止めてあたりを見てみると、公園の向かい、僕が通っていた小学校の目の前にある交差点の、僕がいるのとは対角となるところに、1人の女性が立っていた。
僕はその女性に近づくため、まず彼女の向かい側へ渡り、信号を待つともう一度渡った。